最高裁判所第二小法廷 昭和39年(行ツ)75号 判決 1967年2月24日
上告人 小野政代
被上告人 江東西税務署長
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人伊藤幹一、同岡部勇二の上告理由第一点について。
論旨は、贈与税賦課権の消滅時効の起算日は贈与による財産取得の日であると主張し、そのことを前提として、原判決には法令の解釈を誤つた違法があるという。
しかし、租税債権の消滅時効も、「権利ヲ行使スルコトヲ得ル時ヨリ進行ス」ることはいうまでもない(民法一六六条第一項、昭和三一年法律第一一三号による改正前の会計法三一条参照)ところ、相続税法(昭和三〇年法律第三九号による改正前のもの。以下同じ。)は、一暦年中に贈与により取得した財産の価額の合計額をもつて贈与税の課税価格となし(二一条の二第一項)、この課税価格から一定の基礎控除をした金額に累進税率を適用して贈与税額を算出すべきもりと定めている(二一条の四、二一条の五)ので、当該暦年の終了をまたなければ、贈与税額の算出は不可能である。しかも、同法は、贈与税にづき申告納税制度を採用し、原則として、納税義務者が贈与により財産を取得した年の翌年二月末日までに課税価格、贈与税額等を記載した申告書を税務官庁に提出することにより(二八条一項参照)、若し申告期限までに納税義務者の申告がない場合には、税務官庁がその調査に基つき課税価格及び贈与税額を決定することにより(三五条二項参照)、その納付すべき税額が確定されるものとしている。したがつて、税務官庁による贈与税課税権の発動たる決定は、右期限が経過してはじめてこれを行使し得る状態になるものといわなければならない。
されば、贈与税課税権の消滅時効の起算日は、贈与によつて財産を取得した年の翌年の三月一日であると解するのが相当であり、これと同趣旨に出た原判決(その引用に係る第一審判決)には所論の違法はなく、論旨は、その前提を欠き、採用することができない。
同第二点について。
論旨は、本件家屋の建築費が上告人の夫健太郎の贈与に係るものであると認めた原判決の判断に審理不尽、理由不備の違法があるという。
しかし、原判決(その引用する第一審判決)の右判断は、その挙示の証拠に照らして是認し得るに十分であつて、その過程に所論の違法があるを見い出し難く、論旨は、所詮、原審の裁量に属する証拠の取捨選択、事実の認定を非難するに過ぎないものであつて、採用の限りでない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判官 奥野健一 城戸芳彦 石用和外 色川幸太郎)
上告代理人伊藤幹一、同岡部勇二の上告理由
第一点 原判決には本件贈与税の納税義務の確定時期を判断するについてあやまりがある。
原判決は第一審判決を全面的に支持して従来税務官庁が徴税の便宜のため「贈与税の申告期限は贈与のあつた年の翌年の二月末日」と定め実施して来たことを時効の起算日と誤つて判断し、贈与税の時効の起算日が贈与による財産の取得の時であることに強いて目をつぶつて看過したことは、原判決の主文に直接影響を及ぼす重大なる法律の解釈の誤りであつて、原判決はこの違法のみによつても破棄を免れないものである。
第二点 原判決が本件贈与に関して判断の有力なる一資料となるべき贈与者の贈与の意思表示につき何等考慮に入れた形迹のないことは審理不尽、理由不備の違法あるを免れない。
第一審判決は上告人の夫、小野健太郎を贈与者なりと勝手に認定した税務官吏の創作と、形式的な的外れの税務官吏の出張調書を其儘事実と誤認したが、原判決も第二審における証人小野健太郎、第一審における上告人本人訊問の結果につき慎重の考慮を欠き判決に影響を及ぼす重大なる事実誤認をなしたことは何れも判断をあやまつたものである。